<義妹>嘘予告編その二  あの火事で失ったもの。  小さくなった着替えと古い教科書。小学校の頃の卒業アルバム、今は遠くにいる父親からの手紙。  母親の再婚を機に処分しようと思って、それでも捨てきれずにいたガラクタたち。寮のクローゼットにしまいこんでいたダンボール二つ分の思い出は、築数十年という由緒正しい巨大なガラクタ建造物と運命を共にした。  わたしが持ち出せたもの。  あんまり鳴らない携帯電話と真新しい教科書。校則違反ぎりぎりの化粧道具に軽い財布、それと母親の結婚式の写真。消防車の放水でずぶ濡れになりながら、わたしはそれだけの品を持ち出せた。焼け落ちた寮は、ぼろぼろになった黄色い煉瓦と煤とタールに汚れたこげ茶色の柱だけが残っている。  怪我人はいない。  寮長を兼ねる新任の先生が、慌しく動いていたのを覚えている。同じ部屋だった子は、駆けつけた友達の家に泊めてもらうと言っていた。わたしも一緒にどうかと誘ってくれたのが嬉しかった。  でも。  気がつくと、わたしは電車に乗っていた。携帯電話にメモしていた住所を頼りに、ここに来ていた。 「……ええ。元気です、問題もなく。明日までに学校に連絡して、はい」  目の前には受話器を手に何度も頭を下げている男の人。わたしより二つ年上のはずなのに、なんだか頼りない男の人。一ヶ月前にわたしの兄になった男の人。  佐伯隆さん、この部屋の主だ。  家具の少ない部屋に、この人はずっと独りで暮らしていたのだろう。熱いシャワーを浴びたわたしは、バスタオルで髪を乾かしながら視線を動かして部屋の中を何度も見る。四人で住んでいた騒がしい寮の部屋とは比べようもない、素っ気ない部屋。家鳴りが聞こえそうな、そんな静かな部屋だ。 「明日は休校になったみたいだよ」  隆さんが、わたしの顔を見る。 「明日は土曜日だし、父さんたちも仕事を休んで相談に乗ってくれるって」 「うん」  ぐー。  返事と一緒にわたしのお腹が大きく鳴った。顔が赤くなる。冷えていた身体が温まって緊張も解けて、そうしたら台所から漂ってくる美味しそうな匂いに反応したのだ。恥ずかしい。そんなわたしに、兄さんは「すっかり忘れていたよ」って晩御飯を用意してくれた。レトルトばっかりだった母さんの料理とも、ちょっと薄味だった寮の料理とも違う、隆さんの手作りの晩御飯だ。  わたしは小さなちゃぶ台を囲んで隆さんと一緒に御飯を食べて、それから隆さんの布団を借りて寝た。疲れていたわたしは、隆さんの匂いに包まれてぐっすりと眠った。