『まがいもの』      世界を最初に創ったのは、数匹の獣だった。  恐るべき獣達は世界を創っては壊し、それを何度も繰り返すと飽きてしまったのか世界より去ってしまった。獣は去り際に空の果てに届く巨大なる樹を植え、その枝に宿った果実が星となった。  次に世界を創ったのは、二人の魔女だった。  はじまりの魔女が昼を、おしまいの魔女が夜を創った。二人の魔女は恐るべき獣を狩り、その亡骸から竜と妖精を生み出した。魔女は世界を創るのに飽きると西と東の森に己の館を建てて隠居した。  次に世界を創ったのは、沢山の妖精だった。  彼らは空に浮かぶ星を集めて金鉄を鍛え、人形と歯車を作った。星を採り尽くすと、地に堕ちた星を求めて潜る者と星船を建てて空の彼方に消えた者がいた。妖精が少なくなったので寂しくなった竜は魔女を訪ね、話し相手を創ってほしいと願った。はじまりの魔女は妖精のひとりから人間を創り、おしまいの魔女は竜のひとりから諸々の魔物を作り出した。  そうやって世界は何度も創られては壊れ、少しずつ仲間を増やしていった。  ところが恐るべき獣達が残していった巨木の梢から、見たこともない者が現れた。彼らは自らを神と名乗り、この世界があまりにも無秩序なのだから自分達がまとめてやろうと言い出した。魔女は神がいかに厄介な存在なのか知っていたので無視し、竜は神の話があまりにもつまらないので相手をするのを避け、妖精たちは神の多くが金鉄を欲しがっているのを知って神に抗い、魔物と人間はそもそも竜の話し相手として創られたのでついうっかり神の相手をしてしまった。  多くの神は無害であり人間や魔物に対して親切だったが、欲深く全てを奪い取ろうとする神もいた。それでも人間は騙されやすかったので、そういったひどい神にも大切な金鉄や作物を捧げた。  魔物たちはそんな人間の様子を見て嘆き、まじない言葉と魔法を教えた。竜と妖精は人間に力を貸して悪い神々を懲らしめ、魔女は片っ端から封じ込めた。それを見た全ての神々は激怒し数万の軍勢を送り込み全てを滅ぼそうとし、  あっさりと返り討ちにあった。  神々は今まで奪った金鉄を返し、自らが持つ七十五の理を魔女と竜に譲り、辛うじて滅ぼされずに済んだ。魔女は悪しき神もそうでない神もまとめて封じ込め、その島に竜を住まわせた。  それがセップ島の始まりであると云われている。 『ですからぁ、わたしはぁ、そのときにいっしょにふうじこま』 「てぃりゃ」  とある遺跡の奥底。開けた壷より煙と共に現れた可憐な少女の肩をむんずと掴み、煙ごと壷の中に押し戻すニコラスだった。