『ひとりぼっちのおうさま』  あるところに王様がいた。  王様はいつもひとりぼっちで、小さな小さなお城に住んでいた。  王様はひねくれもので、疑り深い人だった。  誰かが自分を笑っている。  自分は誰にも必要とされていない。  王様の心は、そんな気持ちでいっぱいだった。だから王様は自分で畑を耕して、自分で井戸を掘り、自分で弓矢を作って糧を得た。かかしに冠を載せマントを着せて玉座に置き、王様は小さなお城の隣に小さな掘っ立て小屋を建てて住み始めた。  臣下など欲しくなかったから、王様にお城は要らなかった。若い頃に蓄えた金や銀がお城の蔵にぎっしり詰まっていたが、使う場所もないのでそのままにしておいた。畑を耕そうと鍬を振るうと金や銀の粒がころころ出てくるので、お城の蔵はどんどんいっぱいになっていった。  ある日のことだ。  とても恐ろしい山賊が王様の前にやってきた。山賊は王様が若い頃に貯めた金銀を狙っていたが、みすぼらしい小屋に住んでいる王様の姿を見て情けない気持ちになり何も奪わずに帰ってしまった。王様はますます人が嫌いになった。  ある日のことだ。  とても恐ろしい悪魔が王様の前にやってきた。悪魔は王様の徳の高い魂を狙っていたが、偏屈な王様の暮らしぶりを見てとても徳は高くないと諦めて帰ってしまった。  ある日のことだ。  王様の掘っ立て小屋の前に一人の赤子が捨てられていた。誰の子かも知れぬ赤子は、薄汚れた亜麻布にくるまれて眠っていた。王様はひどく怒ったが、子を捨てたものはどこにもいなかった。そうする内に赤子はひもじさに目を覚まし、大きな大きな声で泣き出した。王様は大きな声に驚き、おまえは腹を空かせているかもしれないがわたしが面倒を見る義務はないのだと叫び返した。もちろん赤子に王様の言葉などわかるはずもない。赤子は王様の立派なひげを掴み振り回し、おなかが空いたおなかが空いたといわんばかりに鳴き続けた。とうとう王様は観念して、牛の乳を温めて赤子に与えた。  ある日のことだ。  王様の掘っ立て小屋の前に一人の赤子が捨てられていた。王様の掘っ立て小屋には、もう七人の赤子がいた。寝る所もなくなった王様は、仕方ないのでお城に移り住んだ。王様は赤子の名前を考えた。来る日も来る日も赤子が捨てられていたが、王様はそれを大事に育てた。王様は面倒だ面倒だと口にしながら、まんざらでもない顔で赤子たちの世話をした。  ある日のことだ。  かつて王様に暇を出された老大臣が王様の前にやってきた。王様の心の傷を悟れなかったことを悔やみ、その苦しみを理解できなかったことを悔やみ、それを詫びようと王様の前に現れた。王様は背負い篭いっぱいの芋の皮を剥いており、同じくらいの量の芋をたくさんの子供たちが一生懸命に剥いていた。百人分はあろう大鍋で子供たちはシチューを作り、城の周りでは青年たちが畑を耕している。  これはどういうことか。  老大臣は王様に尋ねた。王様は答えるより先に包丁とエプロンを差し出し、人手が足りないのだから手伝ってくれと言った。その日、老大臣は王様と子供たちの作った料理を食べて涙を流した。  ある日のことだ。  王様に頼まれて出て行った人々がお城に戻ってきた。王様は彼らを見て、ありがとう、と心の底から感謝した。小さな街が生まれ、王様が育てた子供たちは立派な若者や娘になった。王様が蓄えた金銀は街を作るために使われて、お城の蔵は空っぽになった。老大臣は嘆いたが、王様はそれでも構わないと笑った。王様が鍬を振るうと土の中から金銀が出てきたが、王様はそれを人々のために使った。  ある日のことだ。  とても恐ろしい山賊が再び王様の前にやってきた。山賊は王様を殴り殺してお城を自分のものにしようとしたが、王様が育てた若者の一人が木の棒で山賊を叩きのめしてしまった。山賊は驚くと若者の手下になると誓い、王様は若者に立派な槍と鎧を贈った。  ある日のことだ。  とても恐ろしい悪魔が再び王様の前にやってきた。悪魔は王様の魂はとても徳が高いので奪おうとしたが、王様が育てた娘の一人が空に向かって何かを唱えると天から八色の風が吹いて悪魔を大地に縫い付けた。悪魔は降参すると二度と王様を襲わないと誓い、王様は娘に素敵な靴と髪飾りを贈った。  ある日のことだ。  王様は、自分が昔ひとりぼっちだったのを思い出した。心が荒み、誰も信じられなかった日々を思い出した。それがとても哀しいことを、王様は知った。王様はかつて追い出し、そして戻ってきた人々に謝った。王様と彼らは涙を流し抱き合って、全てを許した。  ある日のことだ。  大きな国の大きなお城の中で、王様は静かに息を引き取った。  王様はたったひとりで亡くなった。  王様は、持っていたものをたくさんの子供たちと国の人に託した。  王様はひとりぼっちで死んだ。  死ぬ時は誰もがひとりぼっちだから、持てる全てを託して亡くなった。