『川ねずみのピエールさん』  あるとき川ネズミのピエールさんが用あって滝壺の辺りを歩いていると、滝に打たれて「はにゅりはにゅり」と泣く水精の娘に出会った。 『はうあうあうあうあうあうあうあうあうあう』  滝の水圧に今にも屈しそうな娘の前に立ち、ピエールさんは挨拶する。 『やあ』 『呑気に挨拶しないで助けて下さいよう』  これは失礼と頭をかき、ピエールさんは頭を下げる。 『てっきり上司に修行を命じられて滝に打たれているものとばっかり』 『その通りなんですけど、わかっていたら助けて下さいよう』  だだーっと涙を流し力説する娘だが、滝に打たれているのでどれが涙なのかピエールさんにはさっぱりだった。しかしピエールさんは咳払いをすると、娘にこう言った。 『娘さん、最近なにか流れてこなかったかね?』 『……何かとは』  なんとなく嫌な予感がした娘は立ち位置を数歩ずらし、首を傾げる。ピエールさんは身振り手振りで大きさを示しながら 『実は滝の上流で、商売道具の』  すこんっ。  狙い済ませたかのように。  真ちゅう製のスコップが娘の脳天を直撃した。立ち位置を変えねば助かっただろうが、スコップの先端はまさに娘の頭頂に炸裂する。くわわん、くわわわぁぁんと鳴り響いた後『は、はにゅりぃ』という言葉と共に娘は意識を失い、彼女が流される寸前にピエールさんは商売道具のスコップを『えいやっ』と引き抜いた。  水精だから溺れないだろう。  とりあえず一人納得したピエールさんは森に帰ったそうな。    めでたし、めでたし。